『恋する少女と想いのキセキ ~Poupee de souhaits~』感想
はじめのうちは近江谷ヒロイン・主人公らしさを楽しみながら読んでいたが、読み進めていくうちになんて残酷な設定なのだろうかと思った。人形はたった一つの大きな願いを宿した存在で、思い出を持てない。取り戻せない過去は未練となって器がよどみ、存在を維持できなくなるのだという。
トワ√でも、エナ√でも、彼女たちと主人公は基本的には思い出を共有しないまま共に過ごす。ドールに過去への信頼はなく、いつ満たされて消えていくのかも分からないのであれば、未来への信頼もないのと同じだ。
彼女たちはまるで世界五分前仮説の被験者である。
『そして明日の世界より――』感想
本作を敢えて一文にするならば、死生観でも日常の大切さでもなく、互いの掌にあるたくさんの黄金の価値を知る物語だったと言えるのではないかと思う。三か月後に世界が滅びる際は、それがどういう意味なのかも分からずに、酷くあやふやなまま自身の生死を考えて恐怖するのが普通なのかもしれない。だから死の恐怖からの脱却と残された時間の過ごし方こそがテーマにも見える。
続きを読む『霞外籠逗留記』感想
良質な物語に触れた時、物語への想いが溢れて零れ落ちるような気持ちになることがある。それは『魔女こいにっき』にて語られたように、物語が読み手を介して繁殖していくものであることの証左で、物語に孕まされたかのように、物語への感想が脳内に満ちたり、その意義や意図の推察をしたり、登場人物たちのその後を想像せずにはいられない。どうにも私はそうしたある種の強制力を有している作品こそ評価する傾向にあるようだ。せっかく宿した命なのだから、出来る限り生み出しておきたいと感じるのは本能的な、恰も母性と呼べる感慨であり、全く感想を書かない諸兄姉は感動の浸出を一体どのようにして処理しているのか。(中絶という熟字が脳裏を掠め、下卑た喩えに内省するものの)気になるところではある。くどくど語ったが、とどのつまり、こうして感想を書いている霞外籠逗留記は面白かったということだ。
続きを読む