退廃的文明開化

気ままにノベルゲームの感想を投稿します。

『メタの神様』感想

『メタの神様』は2022年に配信されたフリーの18禁ゲームです。とても面白くて、こういう作品が眠っているからフリーゲームは侮れない。作中で触れられた愛や祈りについてはここ数年よく考えているので、短い中で源流や意義について思考できたのはとても良かったと思います。プレイ時間の目安は1時間から2時間くらいで攻略難易度は低いです。興味を持った未プレイの方はぜひプレイしてみてください。

 

 

◆ブランド公式HP

www.porontesuta.com

 

エロゲと饗(DLはこちらから)

elog.tokyo

 

◆ストーリー

公式サイト引用

 

 

 

◆以下ネタバレあり感想

私は愛という言葉が大嫌いで大好きです。父親からの性的虐待を受ける姫ちゃんのモノローグに「良い子にしていればパパは機嫌がいいし……愛してくれる。」「愛されているから、それに応えてる。」「私もパパを愛してるから。」「気持ち良くなってほしい。」とあります。これこそ私が醜く感じる大嫌いな愛の一端で、自己防衛が愛で虚飾されている。ようは身体が心を支配している状態で、父親の生々しい性を一身に受けて恐怖を感じながらも拒絶できない、周囲に性的虐待の事実を訴えることが出来ないのは、肉体的な暴力や社会的立場の喪失にセカンドレイプ、経済的自立への強要等に対する恐れがあるからだと思います。加えて言えば、家庭内ストックホルム症候群に罹患した被害者が、明確な加害者を庇いだてるための標語に”愛”を用いている構図なわけです。(個人的にはお題目として矢鱈に美化される家族制度が件の病気を引き起こす要因の一つと睨んでいます。)

 

言ってしまえば彼女は父親と自己によって重ね掛された洗脳状態にあり、これはごく狭小な世界でしか成立しません。故に父親と離れて父親以外の他者と触れ合った修学旅行後は殊更に抵抗感が強かったのでしょう。父親を害する、或いは証拠を集めて然るべき機関に相談する等の能動的な行動を起こせない彼女は、その異常性に気づく理性を無視して自己洗脳を続けながら、誰かに救いを求め続けていたのです。

 

愛が内包する弱者の生存戦略としての側面を否定はできませんし、愛とはどう足掻いても利己的な物だと思い込んでいますが、姫ちゃんを取り巻くやるせなさの描写が本当に上手で、遠いように感じるだけで実在するんだよなと暗くなったり、愛について考えてみたりしながら、あぁだから身体が心を簡単に支配するNTRが嫌いなんだよなぁ、なんて思いました。

 

 

ところで、姫ちゃんが重度のシンデレラ症候群であることをかなめさんに暴かれるシーンで、かなめさんが若くて可愛いうちはという注釈付きの上「姫さんの可愛いお●んこに釣られて」「手を差し伸べようとする王子様が現れますよ」「恩を売ったらヤれるって思ってたんじゃないですか?」「その若さと顔と肉体があれば、また王子様は現れますよ」「でも……現実は厳しいですよ」「あなたはいつまで可哀想な被害者でいられるでしょうか」と口述するが、これを14歳18歳に言うのは酷だとも思いつつ、行動しない甘えを許さない作者の価値観というか怒りがなんとなく見えた気がして、本当に失礼な推測だし好奇心で触れるべきことではないというのは理解した上で、性的虐待かそれに準ずる経験及び、甘えに”女である”ことだけを理由とした一時的な救いや不義とそこからの脱却も含めた諸々の経験に裏打ちされた作品なのかなと気になりました。

…この想像は猫を殺すかもしれない。

 

 

話を戻して、作中に頻出する”祈り”は唯一私たちに許された救いで、救われてほしい・守られてほしい・健やかであってほしい・幸せであってほしい何かに恒常的に向けることができる精一杯だと思ってます。(互いが明確に望む場合は別として、それ以上は正直過干渉で少し気持ち悪いなぁと思います。)そうあれと願うのは突き詰めれば利己だけれど、それでもこの世で最も美しい愛は祈りの中にあるんじゃないかなとも。

だから天満の無事を祈る月乃ちゃんのことが大好きです。テキストから分かる範囲では、彼女だけは私が大好きな愛を体現していたんじゃないかな。

 

 

本作ではTRUEEND含めて、どのエンディングでも必ず誰かは救われていないから、祈りと行動がカギとなってアマツカガミノの力を行使できるようになるんじゃないかと思います。不幸だらけの登場人物たちの中で、行動が伴った祈りの対象者だけが救われていることや、我々プレイヤーをメタの神様に仕立て上げて”祈りを信じるか””行動を起こすか”と投げかけてきていることに作者からの強いメッセージ性を感じました。(主題とはあんまり関係ないけど前述を条件とするなら、天満くんがザエモン丸役を勝ち取ったのは熱心な祈りに加えて努力していたからだろうなぁ。だからましろは彼のことが好きなんだろうなぁ。と思いました。)

 

あえて触れるまでもないと思っていましたが紛らわしいので一応補足です。私がこの世で最も美しい愛だと感じている祈りは他者に対するもので、自己は対象外です。本作には、自己に対する祈りは自分を救いやしないという、たとえ私たちの生きるリアルに即していても、物語的には冷酷にも見える価値観が根底にあります。それでも、そこに行動や他者からの祈りが合わされば救われてもいいじゃないかという優しい願いがメタの神様やアマツカガミノが持つ超常の力に現れているような気がしています。だから私達は神様になれたんですね。

 

最後に、本作を通じて自分の中で新たな思考の道筋を見出したりしたわけではないけど思考の整理に役立ったし価値観も近いと感じました。あとは短い時間で端的に重いテーマを描いたのは純粋にすごいです。欲を言えばかなめちゃんのことはもっと知りたかった。何となくの背景は分かるけど何を思っているんだろう。月乃ちゃんのことが大好きみたいだから、愛を憎んでシビアに現実と自身を見つめていながらも、美しい愛を信じたくて見守っているのかなぁ。

 

 

追伸
クリエイターは書きたいものを書きたいように書くのが一番だと思うけれど、いつか男の娘パラダイスに連れてって…。